引渡しって,結局何を引き渡すの?
あと,現実の引渡し・簡易の引渡しの概要を教えてください。
本記事では,民法182条の現実の引渡し・簡易の引渡しについて,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 現実の引渡し・簡易の引渡しの概念が理解できる
- 現実の引渡し・簡易の引渡しをイメージ図で憶えられる
- 簡易の引渡しが認められている理由がわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した筆者が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
【結論】引渡しとは,占有権を譲渡する方法のこと
1 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
民法182条 【現実の引渡し及び簡易の引渡し】
引渡しとは,占有権を他人に渡すことを言います。
占有権は,物を所持することで発生する権利なのだから,占有権を譲渡したいのなら,ただ単純に物を相手に渡せばいいだけなのでは?
その通りなのですが,民法は引渡しをより便利にするために,物を手渡す以外にも引渡し手段を認めていて,4種類の引渡し方法が存在します。
- ①:現実の引渡し (民法182条1項)
- ②:簡易の引渡し (民法182条2項)
- ③:占有改定 (民法183条)
- ④:指図による占有移転(民法184条)
上記4パターンのうち,本条182条では,1項で①現実の引渡しを,2項で②簡易の引渡しを定めています。
現実の引渡しは,実際に物を相手に手渡すことで,それにともなって占有権が相手に移転する,一番オーソドックスな引渡しです。
二者間で,物が移動するのは,実は,この①現実の引渡しのみです。
簡易の引渡しは,占有権を渡したい相手の手元にすでに物がある場合は,「それあげるよ」と意思表示することのみで占有権を譲渡することが可能です。
解説:「引渡し」なのに,実際に物が移動するのは現実の引渡しのみ
引渡しの4パターン
前述のとおり,引渡しとは,占有権を他人に譲渡する方法です。
民法では占有権を他人に渡す方法を4つ認めています。
- ①:現実の引渡し (民法182条1項)
- ②:簡易の引渡し (民法182条2項)
- ③:占有改定 (民法183条)
- ④:指図による占有移転(民法184条)
これら4パターンにおける横断理解は,以下のページで解説していますので,ぜひ併せて学習してみてください。
特に,占有改定がなぜ即時取得や質権設定で認められないのか,がよくわかると思います。
本記事では,民法182条が定める①現実の引渡しと②簡易の引渡しがどういうものなのかと,その特徴を解説していきます。
現実の引渡し
概要
現実の引渡しでは,実際に,物を相手に渡すことで占有権を譲渡します。
イメージとしては,以下の図です。
唯一,引渡しで「物の移動」が発生する
『引渡し』という日本語からイメージするのは,この現実の引渡しだと思います。
民法では4パターンの引渡しを認めているのですが,実は..
物の移動が起こるのは,現実の引渡しのみです。
現実の引渡し以外の,②簡易の引渡し・③占有改定・④指図による占有移転の3パターンでは,物の移動は一切起こりません。
これらの3パターンでは,全て意思表示のみで占有権を移転させます。
これは大事なポイントなので,しっかりおさえておきましょう。
簡易の引渡し
概要
簡易の引渡しとは,相手や相手の代理人の手元に,既に物がある場合,意思表示のみで占有権を移転する方法です。
※補足 勘違いしやすいですが,指図による占有移転(民法184条)は,自分の占有代理人の手元に物がある場合に,意思表示のみで占有権を移転する方法です。
簡易の引渡しの具体例
イソップ物語の『金の斧 銀の斧』の童話はご存知でしょうか?
斧を池に落としたら女神さまが出てきて,「あなたが落としたのは金の斧か? 銀の斧か?」と聞いてくる,あの物語です。
上記のように,女神さま(相手)が既に斧(物)を所持するとき,「落としたのは銀の斧だけど,女神さまにあげるよ!」と,意思表示して占有権を譲渡するような場合が,簡易の引渡しです。
「あげるよ!」と意思表示するまでは,引き渡しに必要な意思表示がされていないので,引き渡しは完了していないことに注意してくださいね。
「あげるよ!」と意思表示することで,はじめて,簡易の引渡しが成立し,相手(女神さま)に引渡しが完了します。
ここまで書いて,図を作ってから思ったのですが,女神さまって自然人ではないので,権利能力がありませんよね。
「権利能力が無いと権利の主体になれないから,占有権も所有権も取得できないのでは…? まぁいいや細かいことは気にすんな!」
って勢いだけで書き上げたので,細かいことは見過ごしてください。
ちなみに,権利能力は以下の記事で扱ってますのでよかったら読んでみてください。
なぜ,簡易の引渡しが必要なのか
②簡易の引渡しが認められている理由ですが,簡易の引渡しが認められないと,すでに物を所持する人に引き渡しを行う場合にも,①現実の引渡しを利用するしかなく,非常に不便だからです。
②簡易の引渡しが出来ない場合に,どのように不便かというと,せっかく既に相手方が物を所持しているのに,一旦相手方から物を返してもらって,改めて所有権者から相手方へ物を渡して(この動作が①現実の引渡しに該当),引渡しを行う手間が発生します。
民法「これはとんでもなくメンドクセェ…。 せや,相手方が既に物を所持しているなら,『あげるよ』のような意思表示だけの,簡単な引渡しを出来るようにしよう!」
という流れで簡易の引渡しが認められています。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
※人気記事も是非あわせて読んで,勉強効率をUPしましょう!
参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださりありがとうございました。