代価弁済って制度がよくわかりません。
なんで被担保債権額より小さい代価の支払いでも抵当権が無くなるの? それでは抵当権者が損してませんか?
本記事では,民法378条の代価弁済について,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 代価弁済がどのようなものか,概要がわかる
- 代価弁済と第三者弁済の違いがわかる
- 代価弁済額が被担保債権額に満たなくても抵当権が消滅する理由
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:抵当権者側から抵当権消滅を提案するのが代価弁済
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
民法378条 【代価弁済】
代価弁済とは,抵当権者の側から第三取得者に対して「取得した権利(売買代金)を払ってくれたら抵当権を消してあげるけどどう?」と提案し,第三取得者がこれに応じて代価を支払えば,抵当権が消滅する制度のことです。
※上図の事例を用いた説明は,解説フェーズで詳しく解説しています。
【代価弁済の成立要件】
- ①:第三者(第三取得者が)抵当不動産の所有権又は地上権を買い受けた
- ②:抵当権者から第三取得者に対して,代価弁済の請求が行われた
- ③:第三取得者がその代価を弁済した
代価弁済は,第三取得者が抵当権を消滅したいと考えるときにとり得る3つの手段の内のひとつです。
【抵当権消滅の手段 三種の神器】
- ①:代価弁済 (民法378条)
- ②:抵当権消滅請求 (民法379条)
- ③:第三者弁済 (民法474条)
ポイントとしては,以下の2点をおさえておきましょう。
- 代価弁済の請求は義務ではなく,第三取得者が応じるかは自由
- 代価弁済額が被担保債権額に満たなくても,抵当権は消滅する
解説:第三取得者が負うリスクを理解する
※【用語解説】第三取得者=抵当権が付いている不動産を,抵当権が付いたまま所有権を取得した人のこと
勘違いしやすい大前提ポイント
まず,代価弁済という制度を理解するために,最初に必ずおさえておいて欲しいポイントがあります。
そのポイントとは,
『第三取得者が現れたときに変化するのは,抵当権の目的不動産の所有者のみ』という点です。
つまり,第三取得者が現れても,抵当権の被担保債権は消滅しないし,抵当権も内容に全く変化なく継続し続けるということです。
ここをしっかり理解していないと,代価弁済(と抵当権消滅請求)は絶対に理解できません。
第三取得者が現れたときに変化するのは,抵当権の目的不動産の所有者のみ』の意味を,わかりやすく図を使って整理・解説します。
Aがマイホーム(不動産 甲)を建てるため,Xから借金をし,当該マイホームにXのための抵当権を設定しました。
すると,第三取得者が出現する直前の状況は以下のとおりになります。
この状態において,AがBに不動産甲を売却し,第三取得者Bが誕生したとします。
所有権がBに移ると,以下の状態になります。
売却=所有権の移転が起こる前後の図を,よ~く見比べてみてください。
売却前後で何が変わっているでしょうか?
まず,変化があったのは,『不動産甲の所有者がAからBになった』部分です。
Bが不動産甲を購入し,所有権を手に入れたことにより,不動産甲の所有者がAからBに移ります。
(このときのBのように,抵当権付きの不動産の所有権を手に入れた人は,第三取得者と呼ばれます。)
このように,第三取得者が現れたときに起こる変化は,実は,“抵当権の目的不動産の所有者が変わる”のみなのです。
冒頭で言及した『第三取得者が現れたときに変化するのは,抵当権の目的不動産の所有者のみ』は,この変化のことを指しています。
もう一度,売却(=第三取得者出現)前後の図を見比べてみましょう。
図の①のX→Aへのお金返せ債権(被担保債権)は,何も変化していませんね。
債務者もAのままで,債務者がB移ったりもしていませんし,消滅もしていません。
また,図の②のXを抵当権者とする不動産甲に対する抵当権も,何も変化していません。
つまり,抵当権が無くなったわけでもないし,抵当権の被担保債権の額が減ったということもありませんし,被担保債権の債務者がAからBに変更されたということもありません。
このように,第三取得者が出現しても,被担保債権や抵当権は何も影響を受けず,何も変化はありません。
つまり,『第三取得者が現れたときに変化するのは,抵当権の目的不動産の所有者のみ』なのです。
この後,代価弁済の概要を解説しますが,このポイントを理解出来ていないと,代価弁済の理解も追いつかなくなるので,よ~く憶えておいてくださいね。
第三取得者が負う,とんでもなく大きいリスク
ここまでで,抵当権付き不動産を取得した第三取得者が現れても,当該不動産の所有者が変わる以外には何も状況は変わらないことをお話ししました。
そうすると,実は第三取得者というのは,とんでもなく大きいリスクを抱えていることがわかります。
というのは,被担保債権の債務者Aが債務不履行(借金を返せない)などに陥った場合,Xは抵当権を実行できるのです。
この抵当権を実行するにあたって,第三取得者Bは一切関係ないことを確認してください。
第三取得者はあくまでも,抵当権が付いている不動産の所有権を有しているだけであり,抵当権を実行するかしないかの発生原因をコントロールできる立場にありません。
これは,第三取得者Bからすると,深刻かつ大きなリスクとなります。
たとえ第三取得者Bが,Aに不動産甲の購入代金をちゃんと支払っていても,Aが債務不履行に陥れば,Xは抵当権を実行して不動産甲を競売にかけてB以外の人に売ることができます。
そうする,第三取得者Bは不動産甲の所有権失い,退去しなければいけないのです。
これはかなり危険状況であり,第三取得者Bが生きるか死ぬかを,Aが握っているのです。
...じゃ,じゃあ抵当権が付いている不動産なんか買わなければいいのでは…?
たしかにその通りなのですが,世の中の不動産の数多くは抵当権が設定されています。
したがって,世の中の多くの抵当権付き不動産に買い手がつかないことになります。
これは,抵当権が付いている不動産の売買活動の停滞を招きますし,買い手がつかないことで,抵当権付き不動産の価値が大幅に下がってしまいます。
以上から,民法は「抵当権付き不動産の所有権を手に入れた者(第三取得者)が現れたとき,抵当権者と第三取得者との間で,抵当権を消滅させられる制度を作った方がいいな」と考えるに至りました。
そこで作られた制度が,代価弁済(民法378条)と,抵当権消滅請求(民法379条)のふたつです。
本記事では,代価弁済(民法378条)を解説していきます。
代価弁済とは
代価弁済とは,抵当権者の側から第三取得者に対して「取得した権利(売買代金)を払ってくれたら抵当権を消してあげるけど,どう?」と提案し,第三取得者がこれに応じて代価を支払えば,抵当権が消滅する制度のことです。
(前述の事例において,第三取得者Bが,”不動産甲の購入代金をAに払うのではなく,Xに対して購入代金を支払う(=Aの代わりに債務を弁済する)”ことで,抵当権を消滅させるということです。)
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
民法378条 【代価弁済】
つまり,代価弁済では,抵当権者の方から第三取得者に,抵当権が実行されるかもしれない不安定な立場から解放してあげることを提案する制度です。
逆に,抵当権消滅請求(民法379条)では,第三取得者の方から抵当権者に,抵当権が実行されるかもしれない不安定な立場からの解放をお願いする制度です。
代価弁済と抵当権消滅請求では,どちらから抵当権の消滅の提案をするのかが全く逆なので憶え間違えに気を付けてください。
以下で,代価弁済の憶えるべきポイントを整理しておきます。
代価弁済の要件
代価弁済が成立するための要件を条文から抜き出してみましょう。
①抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、②抵当権者の請求に応じて③その抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
民法378条 【代価弁済】
【代価弁済の成立要件】
- ①:第三者(第三取得者が)抵当不動産の所有権又は地上権を買い受けた
- ②:抵当権者から第三取得者に対して,代価弁済の請求が行われた
- ③:第三取得者がその代価を弁済した
条文に書かれている通りですの,そんなに難しくないと思いますので,条文をしっかり読み込んでおきましょう。
代価弁済に応じるかどうかは自由
代価弁済の成立要件の②について,少し注意点があります。
抵当権者からの代価弁済の『請求』と言っていますが,代価弁済に応じるかどうかは義務ではなく,第三取得者の自由です。
代価弁済額が被担保債権額に満たなくても,抵当権が消滅する
代価弁済で第三取得者が支払った金額が,抵当権が担保している被担保債権の金額に満たない場合でも,抵当権は消滅します。
この点,「ん?なんで?」と悩む方が多いようです。
ここから,“代価弁済額が抵当権の被担保債権額に満たない場合”でも抵当権が消滅する理由を解説します。
読み終わったときに,ちゃんと理由を理解できているように,事例を使って,丁寧に解説しますので,安心して読み進めてください。
それでは解説します。
事例解説に入る前に,“代価弁済額が抵当権の被担保債権額に満たない場合”でも抵当権が消滅する理由を言ってしまうと,「抵当権者が良いって言ってるなら抵当権を消してもいいから」が理由となります。
本記事の前半の解説での事例に,具体的な金額をあてはめて説明します。
Aは不動産甲を建てるときにXから2,500万円を借りていて,この2,500万円を担保するために不動産甲にXのための抵当権を設定したとします。
その後,Aは急な転勤が決まり,不動産甲を手放したくなったので,抵当権付きの不動産ということでBへ安めの2,000万円で不動産甲を売却しました。
すると,状況は以下のとおりとなります。
ここで,抵当権者Xが,第三取得者Bに対し「不動産購入代金2,000万円を払ってくれれば抵当権を消すけど,どう?」と代価弁済を持ち掛けます。
Bさんは,代価弁済を承諾し,購入代金2,000万円を抵当権者Xに支払いました。
これにより,代価弁済の成立要件が満たされ,抵当権は消滅し,Bは抵当権無しの不動産甲を手に入れます。
図の中の矢印たちがたくさんあってごちゃごちゃしてますね。
それぞれの矢印(債権や抵当権)たちが,最終的にどのようになるのか,確認しましょう。
下図の『×』の債権・抵当権が,それぞれの理由により消滅します。
そして,最終的に以下のようになります。
ようやく代価弁済をした後に到達できましたね。
代価弁済後を整理すると,以下のようになります。
- 第三取得者Bが,抵当権のついていない完全な不動産の所有権を手に入れる
- A→Bへの代金売買債権は消滅する
- (代価弁済額が被担保債権額に満たない場合)X→Aに対する被担保債権の残部について,X→Aに対する無担保債権として残り続ける
上記事例では,被担保債権額は2,500万円に対し,代価弁済額は2,000万円なので,代価弁済額は被担保債権額に満たないです。
しかし,抵当権は消滅していますね。
ここで,抵当権Xさんの頭の中を少し覗いてみましょう。
Xさん「抵当権を実行して競売すると大体売れる値段は安いんだよなぁ…。 Aへの残債権500万円は無担保になるけど,抵当権を維持するより,今すぐにBから2,000万円回収した方がいいな。」
このように,若干残ってしまう残債権(事例ではX→Aへの500万円)が無担保になったとしても,確実に2,000万円を回収したいと考える抵当権者は存在します。
この抵当権側のニーズと,抵当権を消したい第三取得者のニーズがマッチした場合に活躍するのが代価弁済です。
したがって,代価弁済額が被担保債権額に満たなくても,残債権について無担保になるなどの事情を抵当権者が許容しているのなら,抵当権を消滅させたとしてもいいはずです。(抵当権者が受け入れているのですから)
そのため,代価弁済では,代価弁済額が被担保債権額に満たなくても抵当権が消滅します。
第三者弁済との違い
ちなみに,抵当権を消滅させたい場合,第三取得者として取れる手段は3つあります。
【抵当権消滅の手段 三種の神器】
- ①:代価弁済 (民法378条)
- ②:抵当権消滅請求 (民法379条)
- ③:第三者弁済 (民法474条)
この3つの手段の中で,③第三者弁済だけは,第三者弁済額が被担保債権額に満たない場合は,抵当権は消滅しません。
第三者弁済によって抵当権が消滅するロジックは,「第三者弁済によって被担保債権が消滅したとき,抵当権の付従性により,抵当権が消滅する」というものです。
したがって,「被担保債権を消滅させる」,すなわち,「被担保債権額全額を第三取得者が弁済する」という事実が必要になります。
被担保債権額全てが回収できたのなら,抵当権はその天寿を全うしたわけですから,抵当権者としても,抵当権が消滅することに不満はないはずです。
対して,①代価弁済(と②抵当権消滅請求)では,支払額が被担保債権額より少なくても抵当権は消滅するため,①代価弁済では抵当権者からの代価弁済の請求(=抵当権者の,抵当権が消えることへの同意)が必要とされています。
※②抵当権消滅請求の要件については,別記事で解説いたします。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださりありがとうございました。