今回は民法90条を,3分でわかりやすく解説します。
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法 第90条【公序良俗】
解説:常識的観点から外れた契約は認められず無効
契約自由の原則の例外
民法には契約自由の原則という大原則があります。
すなわち、いつ・誰と・どのような内容で・契約する(又はしない)は、法律が禁止している場合を除いて、当事者の自由という原則です。
この民法90条は、上記の『法律が禁止している場合』を規定しており、契約自由の原則の例外にあたります。
その例外の中でも、おそらく本条が一番有名な存在です。
民法90条は,公の秩序又は善良の風俗に違反している契約は無効にする、という世の中の契約を警戒し、監視するような仕事をしています。
さながら,私たちが自由に生活している実世界の秩序を維持する機関である,警察のような役割を果たしています。
上記の警察的役割をするトップ的存在なので、民法90条は民法界の警察庁のような存在と言えます。
公序良俗違反は許さない
90条の「公の秩序又は善良の風俗」から4文字取って「公序良俗」と言ったりします。
「公序良俗」とは、公の健全な秩序や安全な治安を維持するための常識的な観念のことです。
つまり、犯罪してはいけないとか、反道徳的なことはしてはいけないといったような,常識的な観念のことです。
そして、この民法90条は、公の健全な秩序や安全な治安を維持するための常識的な価値観に反する法律行為(契約)は無効にする、つまりそんな取引は認めないと言っています。
例えば、以下のようなものが公序良俗に反するために民法90条によって無効にされる例です。
- 「Aさんを殺したら500万円を報酬で払う」という契約(殺人という刑法法規違反を含むため)
- 「自分の愛人になるならマンションを買ってあげる」という契約(不貞行為を贈与契約の条件にしているため、反道徳的行為のため)
無効になるとは?
自分が法律を学び始めた当初、よくわからなかったのは,”無効とする”とはどういうことなのか? 無効とするからどうなるのか?でした。
例えば、愛人になってくれた人に対して、お礼などの名目で金銭の手渡しによるやり取りがあったとします。
当事者たちの間では、愛人の関係とそれに対する対価の支払いが発生し、金銭の授受も完了しているので「無効じゃなくね?」と思ったからです。
同じような感覚に陥った方はいらっしゃいますかね…?
「無効とする」の解釈ですが、司法の場で当該契約の有効性を判断する必要が発生した際に、「無効=存在しない契約とする」という解釈になります。
この説明でもわかりにくいと思うので、「自分の愛人になるならマンションを買ってあげる」という「愛人になることを条件とする、マンション贈与契約」を例に説明します。
まず、「愛人になることを条件とする、マンション贈与契約」は、この契約を認めてしまうと民法自身が不貞行為・不倫行為を認めることになるため、公序良俗に反しているとして、民法90条によって無効となります。
これにより、司法(裁判所)は,この契約を無かったもの扱いとします。
するとどうなるかというと、もし愛人になったのにマンションを買ってもらえなかった場合、詐欺被害に合った!契約不履行だ!と、訴訟を起こして訴えても、司法(裁判所)は当該契約は無効,つまり”初めからそんな契約は無かった”と判断するため、詐欺・契約不履行の被害を認めてくれません。
逆に、マンションを買ってあげたのに愛人になってくれなかった場合はどうでしょうか?
この場合も同様で,愛人になってくれなかった!と,詐欺や契約不履行責任を訴えて出訴しても、裁判所は契約は無効(しつこいですが、最初から契約が存在しなかった)と判断し、詐欺被害も契約不履行による被害も認めることはなく、救済してくれません。
まとめると、公序良俗に反する契約をするなら、その契約でどんな不利益を被っても司法(裁判所)は助けないから、自分で落とし前をつけろ(というか、そんな契約するな)と、民法は言っているわけです。
つまり、公序良俗違反の契約をする場合は、当事者の双方どちらもどんな不利益を被っても救済されないリスクがあるため、そんなリスクを負う契約をするのはやめましょう、と民法が牽制しているとも言えます。
以上が「無効にする」の解釈です。
※「無効」に似た概念である「取消し」について,より詳しく知りたい場合はこちらをご確認ください。
無効とはいえ、被害者を救済しないのは可哀想では?
前述のとおり、公序良俗違反の契約が原因で被害を受けても、司法(裁判所)は救済してくれないのでした。
ここで(行政書士受験生時代の私の中で)ひとつの疑問が生まれました。
確かに、契約が公序良俗に反しているのは良くないし、公序良俗違反の契約なのかもしれないけど…、
とはいえ、契約の義務をきちんと履行した側が救済されず、義務履行をしなかった方が逃げ得になるのはいいの?
たとえば、「Aさんを殺したら500万円を報酬で払う」という契約で、殺し屋はAさんを殺しましたが、依頼人は依頼料の支払いを拒否したとします。
この場合、契約に従いAさんを殺した殺し屋は債務履行義務を果たしていますが、500万円を払わずトンズラこいた依頼人は代金を支払うという債務履行義務を果たしていません。
しかし、司法は、前述のとおり、殺し屋から依頼人への代金支払え請求権を認めることはありません。
これは、義務を果たした側の泣き寝入りを意味します。
つまり、間接的に、司法が契約義務を果たさなかった方の味方をしているのでは?と、(初学者の頃の筆者は)疑問に抱いたのです。
この疑問の答えは、民法という法律や司法が、公序良俗違反の契約を有効なものとして扱うと,不法行為を正当化してしまうためです。
上記の殺し屋契約の例において、仮にですが、司法(裁判所)が、殺し屋の主張を認めて依頼者に依頼料を払えと判決をしたとします。
殺し屋の主張を認めるということは、すなわち、契約が有効なものとして認める、ということを意味します。
「契約を有効なものとして認める」ということは、司法(裁判所)が500万円の対価として「殺人を行うことを正当なこととして認める」ことに他なりません。
公序良俗の違反を取り締まるはずの司法が、殺人を正当なこととして認めることはあってはならないことです。
このように、公序良俗違反の契約を有効なものにしてしまうと、私たちの生活の秩序維持を目的とする民法の存在意義に重大な疑義が発生してしまうのです。
したがって、たとえ公序良俗違反の契約の、義務不履行の逃げ得を見逃したとしても、契約の無効性を貫くのが、民法という法律や司法がとるべき姿となります。
以上から、民法90条にて,公序良俗違反の契約は全て無効と定められているのです。
おまけ 警察庁と警視庁の違い
本記事の副題には『民法界の警察庁』にしました。
ちなみに警察庁に似た言葉に警視庁というものがありますが、違いは把握されていますか?
一応、行政書士試験では一般知識などで問われる可能性があるので書いておきますので抑えておきましょう。
- 警察庁:国の組織で、各都道府県の警察組織をまとめる調整役的組織のこと
- 警視庁:東京都の組織で、東京都の警察組織のこと(「東京都警察」とは言わず、東京だけ「警視庁」と特別な名前がついてます)
本記事の民法90条は、契約自由の原則の例外における頂点的な存在なので「警視庁」ではなく「警察庁」を選択しました。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださりありがとうございました。