第1章 物権総則

【登記の公示力・公信力】民法177条:登記を備えると何ができるのか?

伊藤かずま

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ウリム

行政書士や宅建の過去問などの事例に「Aさんは甲不動産について登記をした」みたいな,登記を備えたという表現がよくでてきますよね?

「ふ~ん,登記したんだ」とは思うんですが…

で,登記を備えたら何が変わるの?!

あと,登記には公示力はあるけど,公信力はないとか聞くけど意味不明なんですけど?!

教えて!!

本記事では,上記のような,登記を備えるとどうなるのか?何ができるのか?についてと,登記の持つ公示力と公信力について,基礎の基礎からわかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 登記を備えることの意味がわかる
  • 登記を備えると出来るようになることが理解できる
  • 登記の持つ公示力と公信力を確実に理解できる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:登記を備えると,自分の持っている権利を主張できるようになる!

(※本記事において,「名義人」とは,登記に自分の権利が記載されている人,という意味で用います)

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

民法177条 【不動産に関する物権の変動の対抗要件】

権利というものは,“権利は目に見えない”という,特性を持っています。

したがって,複数人が同一物に権利を主張するような事態に陥ると,目に見えない権利を取り合うこととなり,権利関係が複雑になってしまいます。

よって,資産的価値が高い不動産では,不動産所有権を保有していることを主張することに,登記を備えていること,という制限を加えました

 

登記は誰が不動産の所有権者であるかが記載されており,これは国民の誰もが確認できるように公開されています。

よって,誰でも見れるがゆえに,“誰が”登記に記載されていることを,自分の権利保有の証明力に使うのかで,登記の公示力・登記の公信力と呼び分けられ,分類がされています

  • 登記の公示力:登記の権利の名義人が,自分の持っている権利を有効に主張できるようにする力
  • 登記の公信力:登記に記載されている情報を信じた者(名義人を除く)が,自分の権利を有効に主張できるようにする力

 

上記のように,分類はされているものの,日本においては,

  • 登記の公示力:認められる
  • 登記の公信力:認められない

のように,登記に公信力は認められていません。

すなわち,登記に自分の権利が記載されている人が,その登記上の表記をもって,他人に権利を主張する際のみ,登記の公示力として効果を発揮します。

登記の公示力 VS 登記の公信力
登記の公示力 VS 登記の公信力

 

解説:全ての始まりは“権利は目に見えない”

前提知識:権利は目に見えない!!!

私たちは,今この瞬間もたくさんの権利を持っています。

たとえば,人が生まれながらにして持つ人権や,今住んでいる家が賃貸なら賃借権を,この画面を見ているスマホやPCの所有権などです。

 

では,読者の中に,たくさん存在する“権利自体(の姿)”を,目で見たことのある方はいますでしょうか?

おそらくいないと思います。

 

なぜなら,法律上の権利たちは,目に見えないからです。

所有権・地上権・地役権・賃借権・各種人権…これらは,確実に存在はしているものの,決して目に見えるカタチで私たち自然人の前には表れてくれないのです。

 

登記とは?

日本では,主に不動産や法人について,その不動産や法人についての権利(所有権など)が,誰に帰属するのかを記録し,誰でも確認できるようにしている登記制度というものが存在します

実際に,登記簿の見本を見てみましょう。

(引用:法務省 不動産登記のABC より https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html

さて,この見本をみてみると...

この赤枠のところに「所有権保存 平成20年10月15日 甲野太郎」と書いてありますね。

つまり,この登記簿が示す不動産は,平成20年10月15日に甲野太郎さんが所有権を取得したことがわかります。

 

次に,ここを見てみましょう。

この赤枠には「所有権移転 令和1年5月7日 法務五郎」との記載があります。

したがって,この登記簿が示す不動産は,令和1年5月7日に法務五郎が新たな所有権者になったことがわかります。

 

このように,不動産登記簿を見れば,いつ・誰が所有権を手に入れたのかがわかるようになっています。

また,登記簿は法務局で誰でも(お金を払えば)見ることができるので,基本的には日本に存在する不動産の所有権者が誰なのかが,一般に公開されているということになります

 

登記によって,権利は目に見える?

ウリム

え? 不動産登記簿を見れば,誰が所有権者なのか書いてあるんだから,登記を見れば所有権という“権利”も目に見えることになるのではないですか?!

はい。そのようにも思えます。

 

しかし,登記では“権利そのもの”は見ることができないとされています。

 

登記に記載されているのは「当該不動産についての所有権は〇〇さんに帰属する」という,“〇〇さんが所有権を持っている”という事実です。

登記で見えるもの

つまり,登記に書かれているもの=“〇〇さんの所有権そのもの”ではないのです。

登記で権利は見えない

 

それでも権利は,目に見えないけど確実に存在する

ここまで見たように,登記を持ってしても,“権利”の姿を見ることは我々人間たる自然人にはできないのです。

 

しかし,法律を学んだことのない人の間でも,肖像権・プライバシー権・所有権のような重要権利たちは,その存在を認知されており,存在するものとして扱われています。

宅建や行政書士試験などで法律の勉強を始めると,“権利は目に見えない”というみんなが無意識に了承しているポイントが抜け落ちてしまいがちですので気を付けましょう。

 

しつこいですが,

“権利は目に見えない”

これは絶対におさえておいてください。

 

試験でよく問われる権利関係問題の根幹が,この“権利は目に見えない”にあります。

そして,初学者の方がよく混乱する登記の公示力・公信力も,この“権利は目に見えない”性質が深く関連してくることになります。

 

※ちなみに,この”権利は目に見えない”ということを理解していると簡単に理解できる概念に”占有改定”という引渡しがあります。 こちらの記事で詳しく解説しているので,よかったらあわせて読んでみてください!

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“権利は目に見えない”ことの弊害

ここまで見てきた“権利は目に見えない”という性質は,きちんと法整備をしなければ,私たち自然人たちの権利関係を複雑なものにしてしまいます。

 

たとえば,道を歩いていて,キーホルダーが落ちていて,それを拾ったとしましょう。 周りを見渡したら,A・B・Cの3人全員が「それ私の所有物です」と言ってきたらどうなるでしょうか。

キーホルダーに名前が書いてないとすると,A・B・Cの誰が所有者なのでしょうか?

しかし,“権利は目に見えない”だけであり,所有権という権利は確かに存在し,その所有権の持ち主は必ず存在するのです。

 

このように,権利が目に見えないせいで,複数人が同時にその(見えない)権利を持っていると主張することが可能となってしまいます

その際に,お互いの主張がぶつかってしまうため,トラブルに発展しやすくなります

 

動産の場合,即時取得制度などで権利関係を調整することで,トラブルに対処しています。

対して不動産の場合,上記のような権利関係を争うと,その取り合う物(不動産)の資産価値が基本的に高価であることから,即時取得のような簡易的な制度でトラブルに備えるのは不十分です。

そこで,日本において採用されたのが登記制度です。

 

登記を備えるとどうなるのか

本来,目に見えないとは言え,権利は確実に存在しているのですから,それを所有している者は「所有権という権利を所有している」と,本来は主張できるはずです。

権利所有を主張するAさん without登記

しかし,権利が目に見えないせいで,その主張が本当に正しいものなのか,他人からはわかりません。

他人には権利が見えない...

 

そこで,自分の権利保有を主張することに条件を設け,制限をかけることで,条件を備えた者のみが権利主張が正当に出来るようにし,トラブルに備えることにしたのです。

その有効に権利保有を主張するための条件とは,「登記を備える」ことです。

 

つまり“登記に自分の権利を記載した者は,記載された権利を所有していることを有効に主張できる”これが,登記を備えることの意味です

 

よく問題文に「登記を備えた」と書かれていると思います。

「ふーん登記を備えたのか」ではなく,これからは頭の中で「登記を備えた」=“登記に記載した権利を有効に主張できるようになった!”と変換するようにしましょう

 

登記の公示力

さて,ここまで“権利は目に見えない”を根本原因として,登記制度や「登記を備えた」の意味を解説してきました。

 

登記を備えることで,“登記に自分の権利を記載した者には,記載された権利を所有していることを有効に主張できる”ようになる,と学びましたが,実はこれが登記の公示力と呼ばれるものです。

 

【ここまでの流れ】

権利は目に見えない

権利を持っていることを主張し合うと,社会が混乱する

権利を持っていることを有効に主張するには,登記を備えることを条件として課し,権利主張に制限をかける

逆に言えば,“登記に自分の権利を記載した者には,記載された権利を所有していることを有効に主張できる”

この,登記具備により有効に権利主張できるようになるチカラを,登記の公示力と名付けよう!

という流れです。

登記の公示力
登記の公示力

 

つまり,登記の公示力というものは,登記制度を導入した目的そのものであり,登記という存在から当然に導かれるものなのです。

 

登記の公信力

それでは,登記の公信力とは何なのでしょうか?

 

ここまでに見た登記の公示力というのは,登記に自身の権利を記載した“名義人”が,その登記簿を使って,“自分が権利を持っていること”を外部にし,主張する際に発揮されるチカラでした。

 

ウリム

そういえば,登記簿って,(お金さえ払えば)誰でも見られるんですよね?

それならば,登記簿の記載について,赤の他人が,“登記簿に所有者として記載されている人が,とある不動産について所有権を持っている!”用して,自分以外の名義の登記のチカラを使うことは可能なのでしょうか?

おっしゃるとおりで,登記公開されているので,誰でも見ることができます。

登記は誰でもみることができる

他人の権利が記載されている登記簿を利用する,というのは,そもそもどのような状況なのでしょうか?

他人(A)さんの登記を確認するBさん
登記を信じてAさんから不動産甲を購入するBさん
真の所有権者Cの登場
すかさず登記を持ち出すBさん
他人の登記を信用したことを主張しようとするのが登記の公信力

このように“自分以外の登記の記載を信じて,その記載内容を有効に主張する”チカラを,登記の公信力と言います。

 

つまり,ある1枚の登記簿について…

  • 登記の公示力:“権利の所有者として記載されている人”が登記を利用する際のチカラ
  • 登記の公信力:“権利の所有者として記載されている人以外の”が登記を利用する際のチカラ

ということになります。

 

ウリム

登記の公信力という概念自体はわかりました!

で,肝心の登記の公信力は認められるのでしょうか?!

 

はい...残念ながら日本では,登記の公信力は認められていません

登記の公信力は認められない
登記の公信力は認められず...Bさんは敗北...

つまり,“権利の所有者として記載されている人以外の者”は,登記に書いてあることを鵜呑みにしてはいけないということです。

 

まとめ:登記の公示力 VS 登記の公信力

ここまでの,登記の公示力と登記の公信力の話をまとめると以下のとおりです。

ポイントとしては,登記のチカラを利用しようとするのが誰なのか?というのが基点であることを理解することです。

登記のチカラを利用しようとするのが”名義人”ならば公示力,”名義人以外”ならば公信力となります。

そして,公示力は認められており,公信力は認められておりません。

登記の公示力 VS 登記の公信力
登記の公示力 VS 登記の公信力

※補足 

日本では,基本的にほとんどの場合で,登記上の所有者≒真の権利者となってはいるようです。

しかし,民法177条及び登記に公信力がないことから,不動産を購入するときなどは,登記を鵜呑みにすることなく,真の権利者を調査することが必要です。

しかしながら,調査を尽くしても必ずしも真の権利者が特定できるとは限りません。 

そのようなやるべきことを尽くした場合などにも,”登記の公信力が無い”の一点のみで保護をしないのは民法177条の欠点とも言えます。 

そこで,判例などでは,やるべき義務を尽くした者は,民法94条2項の類推適用という法技術を用いて保護を図っています。

詳しくは別の記事の解説に委ねますが,やるべきことをやったのなら,登記の公信力に近いチカラを民法94条2項の類推適用により認められ,新権利者(上記例のBさん)も保護される場合があり得る,ということだけおさえておきましょう!

 

なぜ登記の公信力は認められないのか?その理由

いろんな理由があるそうですが,最もよく言われるのは「登記官は登記申請書類の形式的なチェックしかしないため」という理由です。

時間と手間をかけて登記申請書類を用意し,申請をしに来た人は,基本的に正しい権利者だろうということで,その登記のチカラ(公示力)を認めます。

 

ただし,登記官は実地調査などを通して,申請人が本当に権利者なのかを調べたりはせず,申請書類に不備がないかのみをチェックします。

したがって,申請を行った者以外,つまり誰でも取得できる登記においては申請人以外の全人類にまで,登記のチカラ(公信力)を認めるのは,やりすぎという判断ということのようです

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

※177条「第三者」の意味の憶え方はこちらで解説してます!

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※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

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参考文献など

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この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

 

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