本記事は,民法177条の第三者の範囲について解説しています。
- ※赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
- ※太文字は,解説中で大切なポイントです
- ※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:民法177条の『第三者』は縮小解釈されている
民法177条の『第三者』は,以下の①~③を全て満たす者です。
- ①当事者以外の者
- ②当事者の包括承継人以外の者
- ③登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
日常用語の「第三者」が指す範囲は①のみです。
したがって,日常用語の「第三者」よりも,②③の条件が追加されている分,177条の『第三者』は狭い範囲を指し,縮小解釈されていることになります。
図で見てみると,かなり『第三者』に該当する範囲が縮小されていることがわかります。
解説:日常用語の『第三者』と,177条の『第三者』は違う
民法177条の『第三者』を,日常用語として捉えると不都合が生じる
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
↓
不動産
に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。↓
不動産の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
民法177条
日常用語の『第三者』というと,当事者以外(売買などの自分と相手方)のことを指します。
たとえば,これを読んでくださっているあなたと,あなたの友人とで,2人で話していて意見が分かれたとき,「『第三者』に意見を聴いてみよう」となった場合,この『第三者』は読者とその友人以外の人を指すはずです。
じゃあ,177条の『第三者』も,当事者以外の人のことでいいんだよね?と思ったかもしれませんが,法律上で『第三者』を考える場合,実はそう簡単な話でもないのです。
例えば,ある人が友人から,土地甲を購入したところ,土地甲を全く知らない人が,土地甲にテントを張って勝手に暮らしていたとします。
民法177条によれば,不動産の所有権は登記がなければ,その所有権を第三者に主張することができないルールになっています。
さて,この全く知らない不法占有者は,日常用語でいうところの『第三者』です。 なぜなら土地甲の売買の当事者以外の人だからです。
そうなると,177条によって,土地甲の所有者は,登記を備えるまで,不法占有者に対しても,所有権を主張できないことになります。
これは,法が不法者を擁護するようなものであり,あまりにもおかしい結果です。
なぜ,登記が無ければ本来の所有者が,不法占有者に対しても,土地の明け渡しを要求できない,という変な結果に達してしまうのでしょうか?
これは,民法177条の言っている『第三者』を,日常用語と同じように扱ってしまっていることに原因があります。
そこで,177条の『第三者』は,当事者以外のことを指す日常用語の『第三者』の意味よりも狭い範囲を指すものとして考え直す必要が出てきたのです。
民法177条の『第三者』は誰なのか
判例は,177条の『第三者』は,当事者もしくはその包括承継人にあたらない者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者,としています。
(行政書士受験予定の方は,上記の赤字は暗記しなければいけません。 記述式問題で問われる可能性があります。)
つまり,以下の条件①~③を全て満たす人が177条の『第三者』です。
- 条件①:当事者以外の者
- 条件②:当事者の包括承継人以外の者
- 条件③:登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
日常用語の『第三者』は,条件①のみを満たす人です。
対して,177条の『第三者』は,条件①②③すべてを満たす人です。 したがって,条件②と③が追加されている分,日常用語の『第三者』よりも対象範囲が狭くなっています。
それぞれの条件を少し見てみましょう。
条件①:当事者以外の者
これは,日常用語の『第三者』と全く同じなので問題ないと思います。
条件②:当事者の包括承継人以外の者
包括承継人とは,他人の権利義務を一括して継承する人のことを言います。
民法における包括承継人は,相続人と考えて頂いてOKです。
相続の性質により,被相続人(亡くなった方)の権利義務や置かれた立場を,原則そっくりそのまま引き継ぐ相続人は,当事者と同一視して良いため,『第三者』には該当しません。
条件③:登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
民法177条は,自身の不動産の所有権を,第三者に対して主張するには,登記を備えないといけないよ,という規定です。
民法177条が存在することにより,不動産の所有権を主張するのに,わざわざ登記を用意する負担を課すことになります。
真の権利者に負担をかけさせる以上,登記がないと所有権を主張できない相手も,それ相応のふさわしい立場にあるべきです。 そうでなければ,真の権利者の登記を備える負担との間でバランスが取れません。
登記が無いと所有権を主張できない相手としてふさわしい立場の者とは,不動産に関して正当な利害関係をもっている者(不法占有者などではない)です。
判例は,この不動産に関して正当な利害関係をもっている者のことを,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者,としています。
すなわち,民法177条の条文上は,ただの『第三者』となっているけども,真の権利者に登記具備の負担を課している以上,この『第三者』は,『登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者』であるということです。
まとめ
最後に,リライトした177条に条件①②③をあてはめて,頭の中を整理しておきましょう。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
↓
不動産の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
↓
登記がなければ,不動産の所有権などを,『第三者』に主張できない。
民法177条
↓ 『第三者』を日常用語として捉え...
↓ 条件①(当事者以外の者)に書き換え
登記がなければ,不動産の所有権などを,『当事者以外の者』に主張できない。
民法177条 条件①を反映
↓ 法律上,包括承継人は前主の権利義務をそっくりそのまま受け継ぐため...
↓ 条件②(当事者の包括承継人以外の者)を追加
登記がなければ,不動産の所有権などを,『当事者及びその包括承継人以外の者』に主張できない。
民法177条 条件①・②を反映
↓ 登記具備の負担を課す以上,相手方もそれ相応のふさわしい者である必要があるので...
↓ 条件③(登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者)を追加
登記がなければ,不動産の所有権などを,『当事者及びその包括承継人以外の者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者』に主張できない。
民法177条 条件①・②・③を反映
以上で,民法177条の『第三者』の意義が導けました。
これを図にすると,冒頭に掲載した以下の図となります。
参考文献
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