本記事は,民法196条2項のただし書きの,悪意占有者に対する回復請求の際の,裁判所が,有益費の償還に対して,相当の期限を許与できる規定がなぜ存在するのかについて解説しています。
- ※赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
- ※太文字は,解説中で大切なポイントです
- ※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:悪意占有者による,占有回復妨害をさせないため
悪意占有者が意図的に,回復請求者が支払えないような金額の有益費を支出し,この有益費が払えないのを理由にして,占有物を返還しないような事態を阻止するため。
解説:問題の根源は留置権
196条2項は,占有者が,その占有物にお金(有益費)を出して価値を上昇させたのなら,回復請求者はその相当額を払わないと,占有を回復できないと定めています。
これは,占有者と回復者との間の,公平を図ることが目的です。
1 (略)
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法196条2項
上記のとおり,この196条2項にはただし書きが引っ付いています。
ただし書きは,占有者が悪意の場合は,回復請求者の有益費の支払い期限を,相当の期間,先延ばしにしてもよい旨を規定しています。
これは,悪意占有者が,回復請求者が支払えないような金額の有益費を意図的に支出することで,有益費の償還が無いことを理由に,実質的に占有回復を不可能にすることを防止するためです。
なぜ,有益費が払えないと占有を回復できないのかというと,留置権を定める295条1項が存在するからです。
1 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
民法295条1項
この295条1項を,196条2項の状況に当てはめてリライトしてみます。
1 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
↓
1 他人の物の悪意占有者は、
その物に関して生じた有益費を支払え債権を有するときは、その債権の弁済有益費の償還を受けるまで、その物を返還しなくてもよい留置することができる。ただし、その債権有益費を支払え債権が弁済期にないを迎えてないときは、この限りでない。↓
1 他人の物の悪意占有者は、有益費を支払え債権を有するときは、その有益費の償還を受けるまで、その物を返還しなくてもよい。ただし、その有益費を支払え債権が弁済期を迎えてないときは、この限りでない。
民法295条1項に民法196条2項をあてはめ
以上のリライトした条文を読めば明らかなとおり,悪意占有者は,有益費を支払ってもらうまで,その物を,留置権により,自分の手元にキープすることができます。
しかし,前述のとおり,悪意占有者が意図して高額な有益費を支出した場合,回復請求者が実質的に回復不能に陥る可能性があります。
そこで,『有益費の償還について相当の期限の許与する(196条2項)』=『有益費支払債券の弁済期を迎えていない状態にする』ことで,悪意占有者が留置権の主張をできないようにしているのです。
参考文献
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