第3章 法人

民法34条:法人の能力をわかりやすく解説【生まれた時から制約を背負う者】

2021年4月29日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法34条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています

法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

民法 第34条【法人の能力】

 

条文の性格

法人とは、人の集合体である組織が、法令の規定や手順(登記など)を満たすことを要件に、権利能力を持つに至った存在でした。

民法は、主に人間の個人対個人の権利や義務の衝突を規律することを目的にしている法律です

法人も33条によって民法の権利の主体になれますよ、と定めている以上、人間対法人の権利や義務の衝突が発生することになります。

ところが、法人は人間の集合体なので、人間対法人というのは言い換えれば、ひとり対大人数という対立関係です。

私たち人間がひとりでできることは限られています。

人間ひとりが生涯で稼げるお金は約2億5000万円と言われていますが、大企業の法人は1年で100億円以上稼いでいるところもあるので、そんな巨大法人に個人で立ち向かってバトルしても金にモノを言わせて返り討ちにされるのが関の山です。

また、33条の記事でも触れましたが、法人に所属している個人の意志と法人としての意志が一致していないことも多く、法人に所属する個人と法人との権利関係の調整も民法は要求されることになりました。

そこで、民法は法人に対して権利能力を授けたはいいけど、単純に授けただけでは法人が無双状態になってしまうので、何かしら手を打って法人の内外の両面から、個人の権利を保護する必要性が出てきました

そこで登場するのが、この34条です。

33条が法人に対して権利能力をあげたのに対して、34条がその法人の権利能力に制限かけることで内外の個人vs法人のパワーバランスの調整をする役割を担っています。

条文の能力

法人は、法人の目的の範囲内でしか権利能力が認められない

33条によって人間以外に唯一、法人に権利能力が認められました

しかしながら権利能力を法人に与えたはよいものの、法人は多くの人間が所属していることも多く、一個人である人間と法人がバトルすると対等な関係とは言えないケースも多いことから、法人の持つ権利能力には制限をかけてることとしました。

制限をどのようにかけるかですが、民法は法人が権利能力を行使できる範囲を狭くすることで対応しています

法人が権利能力を行使できる範囲は、34条の条文内に書いてあるとおり、定款その他約款で定められた目的の範囲内です

定款とは、法人が自分自身の活動について定めた根本規則のことです。

約款は、法人とその法人が提供するサービスを利用する顧客との合意形成やルールについて定めたもののことです。

会社法で学びますが、法人を設立するには定款を必ず作成しなければいけないのです。(約款は必須ではないです。)

そのため、裸一貫で生まれてくる自然人と違って、必ず定款と一緒に生まれてくる法人は、生まれながらにして定款による権利能力の制限を課されているということになります。

定款による権利能力の制限の例を見てみましょう。

例えば、定款に「当法人の寄付行為は、寄付上限を利益の3%以内の額とし、寄付先はNPO法人のみとする」と書いてあったします。

この場合、当該法人は上記の定款に書いてある寄付行為しかすることが出来ません。

上記法人が定款に書いてある範囲外の行為、例えば、寄付を社長のお気に入りの宗教団体にするといった行為はできないわけです。

重要判例:最判昭45.6.24 八幡製鉄政治献金事件

民法34条を学ぶにあたってのポイントは「法人の権利能力は定款に定めた範囲内でのみ認められる」という点でした。

定款に定めた範囲がしっかり書かれていて、法人の権利能力範囲がしっかり線引きされていれば難しいことはありません。

しかし、現実には定款を作るときは、誕生させる法人の将来の可能性を狭めないために、やや抽象的な表現が使われることがあります。

そのため、「この行為は誰が見ても定款で定めた範囲内!」や「これは定款読む限りNG!」と必ずしも明確に言えないこともあります。

例えば、ITの事業を目的としている法人が、「国家予算の多くをIT事業に確保する」と宣言しているITに意欲的な国会議員を応援したいと思っているとします。

これが、皆さんのような自然人が特定の国会議員を応援するために献金をプレゼントすることは何も問題ではありません。

では、定款の範囲でしか権利能力を持たない法人が政治献金をすることはOKでしょうか? それともNGでしょうか?

IT推進派の国会議員に政治献金をすることで、この国会議員がIT関連の法律や海外での新しい技術を日本で整備する環境を整えたりした場合、政治献金することは巡り巡ってIT事業の目的に沿っているとも言えます。

しかし、社長と国会議員とが親しい友人であったりすると、IT事業目的と言いながら、友人にお金を贈与することが真の目的ともとれます。

また、法人は人の集合体でもあるので、法人に所属する人達が政治献金を良しと思っていないかもしれません。 このような事情も考慮する必要がありそうです。

上記のように、民法34条の条文だけを読んでも白か黒かハッキリしない法人が政治献金できるかどうかですが、この点で重要な判例があります。

それが、八幡製鉄政治献金事件です。

詳しくは判例ページの説明に委ねますが、結論としては法人の政治献金はOKです。

重要なポイントは、「権利・義務は性質上可能な限り、法人にも認めるべき」と最高裁が考えている点です。

コメント

元々、権利や義務の主体は自然人をメインとして発展してきました。

自然人を想定して構築した民法を、そのまま考えなしに巨大な経済力・影響力を持つ法人にあてはめると不都合が生じます。

最高裁は、法人に可能な限りの権利・義務の主体性を認める考えですが、やはり自然人と全く同じとは出来ないので、法人は少なからず制約を負うことになります。

そのため、法人は生まれながらにして制約を背負った存在といえます。

なので法人は、アニメや漫画なら、そんな課せられた制約をぶち壊す、自由を求めるキャラクターになりそうですね。

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