今回は民法32条の2を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
民法 第32条の2【同時死亡の推定】
条文の性格
前条までの失踪宣告に関する条文も、この32条の2も、どちらも死亡したタイミングを決めるルールを規定しています。
そのため、前の条文から読み進めて来ると「あれ? 普通失踪は7年満了した時、特別失踪は危難が去った時が死亡タイミングじゃないの? なんでまた新しいルールが出てきたん?」と混乱しやすい条文です。
ポイントは、誰に対して条文の効力が適用されるのか?を抑えることです。
失踪宣告に関する条文は、生死不明の者の死亡タイミングを決めるルールです。
対して32条の2は、死亡したのは確定したけれど、いつ死亡したのかわからない者の死亡タイミングを決めるルールになります。
つまり条文適用の対象において、「生死不明者」と「死亡確定だが死亡時期不明者」という差が大きな違いです。
32条の2は、失踪宣告条文グループの直後に位置しているので、31条と同じく死の宣告人の様な印象を抱きやすいですが、そのイメージで行くと勘違いします。
この条文は、死亡確定者の死亡タイミングを特定する条文なので、検死官・法医学者のような存在と言えるでしょう。
条文の能力
同時死亡推定の要件と効力
条文の性格のところで述べたとおり、32条の2は死亡確定者で死亡時期が不明な者に、明確な死亡タイミングを与える条文となります。
もう少し正確に言います。
死亡確定者(失踪宣告者を含む)で、複数人が死亡する要因で亡くなったが死亡時期が不明の者は、他の亡くなった人と同じタイミングで死亡したことにする、がより正確です。
整理すると、
- 死亡確定者である
- 複数が亡くなる要因で亡くなっている
- 他の人が亡くなった以降に生存が確認されていない
以上の要件が満たされたとき、
- その者は他の人と同時に死亡したものと推定する
という効果が発動されます。
要するに、複数人が亡くなった場合、明確に死亡タイミングがわからない人は、同時に亡くなったことにするよ、ということです。
以下のCaseで例を見てみましょう。
A・B・C・Dの4人家族が同じ住宅αで生活していた。
ある日の夜中、巨大地震が発生し、A・B・C・Dの4人が就寝している住宅αが倒壊炎上する被害が発生した。
当該被害により、A・Bは瓦礫の下敷きになり即死し、Cは遺体が見つからず行方不明、Dは運よく救出されて助かった。
当該巨大地震では住宅αに限らず、広範囲に同様の被害を出し、多数の死者・行方不明者・建築物の崩壊をもたらした。
A・Bは即死が確定しており死亡タイミングが特定できます。
問題は特定できないCです。
Cは即死したかもしれないし、地震直後に住宅αから逃げ出し、しばらくの間生存した後に別の場所で火に巻かれて死亡した可能性もあります。
この場合、Cは行方不明となってしまい、正確な死亡タイミングは特定できていませんが、32条の2によってA・Bと同時に死亡したと推定されます。
「みなす」と「推定する」
ここで法律用語を学んでおきましょう、お題は「みなす」と「推定する」です。
似たような言葉ですが、法律用語としては全く違う扱いとなります。
「みなす」は、法律上そういうものとして決定して扱うこと、反証を提示しても覆りません。
「推定する」は、法律上は一応はそういうものとして扱うこと、反証があれば覆ります。
「みなす」は非常に強力な決定で有り、例外措置がなければ原則として覆ることはありません。 イメージとしてはガッチガチのコンクリートです。
「みなす」の例ですが、民法866条で使用されています。
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
民法 第866条 【相続に関する胎児の権利能力】
母親のお腹の中の赤ちゃんは、相続のルールを考える上では、既に生まれたとして扱います。
これは「みなす」と書かれているので「まだお腹の中にいます!ほら!」って今撮ったエコー写真を見せて反証を出したとしても覆らず、生まれているものとして扱います。
一方で、「推定する」は「未確定だけど、とりあえず仮決めするかー」っていうイメージです。
「推定する」の例は、民法772条1項が有名です。
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
民法 第772条1項 【嫡出の推定】
結婚している間に妻がお腹に宿した赤ちゃんは、夫との間に出来た子どもと仮決めするよ、ということです。
これは反証、例えばDNA検査により父子の親子関係が証明されたなどの場合は覆ります。
つまり、推定によって夫の子としていたけど、夫の子ではないと認めるということです。
失踪宣告はみなす、同時死亡は推定
民法31条と32条の2の文言をあらためて見比べてみましょう。
前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
民法 第31条 【失踪宣告の効力】
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
民法 第32条の2 【同時死亡の推定】
よく見ると31条は「みなす」で、32条の2は「推定する」になっていますね。
31条の失踪宣告は「みなす」なので、そう簡単には覆りません。
失踪者はもう死んだことにしているので、原則覆らないのです。
失踪宣告は、財産上や身分上の変化を発生させます。 身分上の変化発生によって、婚姻が終了し、失踪宣告された人の配偶者は再婚可能になりますが、もし死亡が「推定する」だと、簡単に失踪宣告が取り消される可能性があるわけです。
いつ失踪宣告が取り消されるかわからないと、なかなか再婚相手を探すことも難しいでしょう。 そのため、原則は失踪宣告は取り消されないものとして、財産や身分のその後の処理を進める方が望ましいため、31条は「みなす」になっています。
ただ、31条の失踪宣告に関しては、32条の失踪宣告の取り消しルールが存在しているので、例外的に生存の証明と家庭裁判所の取消が揃えば、「みなす」が覆る特例があります。
逆に言えば、「みなす」は32条のように、「みなす」を覆す法律のような強力な力を持つ存在がないと覆らないわけです。
一方で、32条の2は「推定する」なので、反証があれば覆ります。
例えば、前述のCaseにおいて、地震発生後にCが逃げいている姿が防犯カメラに写っていたとか、Cが地震発生の時間以降に119番していて電話対応の人と会話していた記録が残っていたなどの反証があった場合は、同時死亡扱いにはなりません。
同時死亡推定ルールの存在意義
この32条の2はなんで存在するの?って点ですが、主に相続がらみでの規定になります。
Dが死亡した場合にDの財産を相続できるEは、Dの死亡後1秒でも生存していれば相続する権利を得ます。
一方で、DとEが同時に死亡した場合は、Eは相続する権利がありません。
「同時に死亡したならEは死んでるんだから、相続できるかできないかは関係なくね?」と思うのもごもっともです。
しかし、Eが死亡したときにEの財産を相続できるFからしたら大事な問題です。
DよりEが少しでも生存していたなら、Eは「Dの財産の相続権」を得ます。 そして、FはEが死んだら「Dの財産の相続権」をEから相続し手に入れること、すなわち実質的にFはDの財産を相続できるのです。
一方で、DとEが同時に死亡したのならEは「Dの財産の相続権」を手に入れていないので、FはDの財産を相続できないのです。
コメント
この32条の2で30条から始まった、人の死亡時期に関する規定は最後になります。
次の33条からはいよいよ人間以外の法律主体である法人の登場となります。
人とはまた違った存在なので、様々な調整や制約がある、という観点から攻略していきましょう。