今回は民法30条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
1 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
民法 第30条【失踪の宣告】
条文の性格
民法30条~32条は「失踪」について規定しています。
失踪とは、行方がわからず生きているのか死んでいるのかわからない状態のこと、つまり行方不明になっている状態のことです。
この民法第30条は、こういう状態になったら失踪として認めます、というルールを定めています。
制限行為能力者のときと同じで、人間に対して「この人は失踪者です」とラベリングして、身分を与えるのが30条の役割です。
ラベリングについては以下の記事のコメントを読んでみてください。
30条は失踪者にラベリングを行うことで、31条の効力発揮に貢献します。
31条のための縁の下の力持ち的存在です。
条文の能力
失踪宣告とは
この30条が定めるのは失踪宣告というものです。
失踪宣告とは、利害関係人から請求があったときに、生死不明な人を家庭裁判所が法律上死亡したと認定する制度のことです。
なぜ失踪宣告が必要なのか
なぜこんな失踪宣告制度があるのかというと、民法は、私たちの人生における大部分の活動について定めています。
民法の守備範囲は「ゆりかごから墓場まで」なんて言われたりもします。
実際のところ、民法は遺言や相続など、私たちが死んだ後についてのルールも規定しています。
そのため、人が死んだ時に発動するルールを取り仕切っている民法は、キチンと「人が亡くなった」ということを判断する必要があるのです。
人の死は、病死・事故死・寿命など、様々な理由で訪れますが、明確に他人が判断できる状況で亡くなり、死のタイミングを特定できるのなら問題はありません。
ところが、災害に巻き込まれたとか、ある日突然家出したまま音信不通になってしまったとか、生きているのか死んでいるのかわからない、ということも起こりうるわけです。
この様な生死不明な人を放置すると、未来永劫生き続けることになり、それは実社会で不都合を引き起こします。
例えば、生死不明な人の配偶者(夫や妻)は、結婚相手が明確に死亡と認められない以上は再婚できません。
これは人生のやり直しなども出来ず、残された人にとって不都合です。
そのため、民法30条は「生死不明な状態が特定の年数続いた」場合は、利害関係人からの請求で家庭裁判所が「この人は失踪者です」と認める失踪宣告制度を定めました。
(「失踪者」は次の条文の民法31条と合わせてると、実質は「死亡者」を意味します。)
利害関係人とは
ここで言う利害関係人とは、生死不明な人が死亡と認められることによって利害関係を有する人のことです。
例えば、財産を相続できる、亡くなった人と結婚していて再婚が可能になる…などです。
利害関係を有する必要があり、ただ単に「アイツとは古くからの友人なんだ…」という旧知の仲では利害関係人とは言えません。
普通失踪
ここまで、その存在意義をお話ししてきました失踪宣告ですが、民法は普通失踪と特別失踪の2パターンを用意しています。
まずは普通失踪についてです。
普通失踪とは、家出のように生活拠点からいなくなり生死不明になって7年が経過した場合、失踪宣告(=31条と合わせると死亡宣告)をすることです。
7年という時間を長いと見るか、短いとみるかは、後述の所有権絶対の原則を読んでみて皆さんでも考えてみると面白いと思います。
特別失踪
特別失踪とは、危難に巻き込まれたが死亡は確認されておらず生死不明になり、危難が去ってから1年が経過した場合、失踪宣告(=31条と合わせると死亡宣告)をすることです。
例えば、天災に巻き込まれた、沈没した船に乗っていた、エベレスト登頂中に音信不通になった…などです。
特別失踪は1年間の生死不明で失踪宣告が認められるのは、状況的に死亡した可能性が高いためです。
コメント
所有権絶対の原則
民法には、所有権絶対の原則というものがあります。
個人が所有する財産は、例え相手が国家権力であっても、不当に侵害されることはなく、自分自身の意志でのみ自由に処分等ができるのです。
これを所有権絶対の原則といいます。
つまり、生きている人の持っている財産は原則、当人の意志が無ければ動くことがないわけです。
しかし、財産を持つ人が亡くなった時は話が変わります。
人の死をキッカケとして、相続というものが発生し、財産の移動が起こります。
時に相続というのは、莫大な財産が動くことがあります。
この場合によっては大きな財産の移動が、人の死を境に発生するため、民法が「この人は死んだ」と判断する基準はとても重要なのです。
実は生きていた人に相続作用を適用すること、それは所有権絶対の原則の侵害に繋がるからです。
前述の普通失踪が7年間という期間を要するのも、個人的にはこの所有権絶対の原則を侵害しないためだと思っています。
普通失踪を短い期間で認めると、それだけ実は生きていた人を死亡扱いしてしまうリスクが高くなります。
一方で、普通失踪を認めるまでの期間が長すぎると、残された人や財産の自由がかなり制限されてしまいます。
普通失踪の7年間という期間は、立法者がその辺りのリスクのバランスを考えて決めた数字なんだろうな、と想像するのも楽しいですね。
もし、皆さんが普通失踪の年数を定めることを任されたなら、何年にしますか?