占有の訴えには,占有保持の訴え・占有保全の訴え・占有回収の訴えの3つあることを学びました。
でも,なぜ占有保全の訴えのみが,『妨害の予防”又は”損害賠償の担保』なの?
占有保持の訴えと占有回収の訴えは,両方とも『~”及び”~』なのに…。
本記事は,占有の訴えにおいて,なぜ占有保全の訴えだけが『又は』なのかについて解説しています。
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:妨害・実害が発生する前か後か,という観点がポイント
占有保全の訴えは,未だに妨害が現実化しておらず,これから妨害が起こりそうな時に,妨害の発生に備えるための請求権です。
すなわち,占有保全の訴えは,妨害発生の前に行うため,妨害が発生しないようにする予防か,仮に妨害が発生してもそのための担保の取得の,どちらか片方さえ確保できれば備えとしては目的を達成できます。
よって,占有保全の訴えは,妨害の予防か,損害賠償の担保のどちらか片方を請求できるように,条文にて『又は』となっている。
占有保持の訴えと占有回収の訴えは,現に妨害・実害が発生した時に,妨害を取り除き,受けた被害を補填するための請求権です。
そのため,妨害排除や物の返還をしてもらうだけでなく,妨害などによって発生した損害の補填もしてもらわないと,占有を侵害された者の保護が十分でない可能性がある。
よって,占有保持の訴えと占有回収の訴えは,妨害排除や物の返還に加え,損害賠償も請求できるよう,条文にて『及び』とされている。
解説:占有保全の訴えのみ,妨害・実害が現実化する前に行使できる請求権
占有の訴えは,民法197条により存在を認められ,法198条~200条により,具体的に3つの訴えの内容の詳細が定められています。
占有者は、次条から第202条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
民法197条(占有の訴え)
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
民法198条(占有保持の訴え)
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
民法199条(占有保全の訴え)
1 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
民法200条(占有回収の訴え)
2 (本記事では略)
以上の民法198条~200条を見てみると,『〇〇及び損害賠償』(法198条・200条)か『△△又は損害賠償の担保』(法199条)というように,設計されています。
『A及びBができる。』とあれば,AとBの両方を行うことができます。
対する『A又はBができる。』とあれば,AかBのどちらか片方を行うことができます。
“及び”とあるのは,占有保持の訴えと占有回収の訴えです。
すなわち,占有保持の訴えでは,望むのなら,妨害の停止と損害賠償請求の両方をすることができます。
また,同様に,占有回収の訴えでも,望むのならば,物の返還と損害賠償請求の両方ができます。
一方で,”又は”が用いられているのは,占有保全の訴えです。
よって,占有保全の訴えでは,たとえ望んでも,妨害の予防か損害賠償の担保の,どちらか片方のみを請求できるのです。
なぜでしょうか?
これは,占有の訴えをする時が,妨害の実害が既に発生する前か後かの違いによるものです。
占有保持の訴えと,占有回収の訴えは,既に妨害が発生してしまった後に行う訴えです。
これらの訴えの場合には,すでに実害が発生しているため,妨害を取り除いたり,物を取り返しただけでは,実害による被害という側面を完全に治癒できていません。
したがって,妨害排除や物の返還以外にも,損害賠償請求を認めてあげる必要があります。
よって,民法では占有保持の訴えと,占有回収の訴えにおいては,損害賠償請求を同時に行える設計を採用しているのです。
以上から,占有保持の訴えと,占有回収の訴えの条文では,『及び』が用いられています。
対して,占有保全の訴えは,妨害が発生しそうな場面,すなわちいまだに妨害は現実化していないときに行う訴えです。
未だに実害が発生していないのですから,妨害の予防か,仮に妨害が現実化しても,その被害への損害賠償の担保の,どちらか片方が確保できれば,保護として十分です。
よって,民法では占有保全の訴えにおいて,妨害の予防か損害賠償の担保のどちらか片方を請求できるように設計されています。
以上から,占有保全の訴えの条文では,『又は』が用いられているのです。
細かいですが,すでに妨害が現実化している占有保持の訴えと占有回収の訴えでは,『損害賠償』が請求できます。
一方で,未だに妨害が現実化していない占有保全の訴えでは,『損害賠償の”担保”』が請求できる違いもあるので,しっかり押さえておきましょう。
参考文献など
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