
賃借人が対抗要件を備えていると,賃貸人たる地位が“当然”に移転すると聞きました。
なぜ,賃貸人に関する地位が移転するかしないかが,借りている人の対抗要件の有無に影響されるの?
本記事では,賃借人が対抗要件を備えた場合,借りている不動産の所有者が変わった際に,なぜ当然に賃貸人たる地位は移転するのかについて,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 対抗要件を備えることの意味が理解できる
- 借主が対抗要件具備時に,賃貸人たる地位が当然移転する理由がわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:賃借人が対抗要件を備える=賃借人は無敵モード突入!
※本条文の理解のための法律用語整理
・「対抗できる」:権利を他人に対して主張を押し通せる
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・「対抗要件」:「対抗できる」になるために必要な条件
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・「対抗要件を備えた」:「対抗要件」を満たし,「対抗できる」状態
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
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いらないところをカット+「対抗要件を備えた」を変換
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民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による(←本記事ではカット)賃貸借の対抗要件を備えた借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
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本条文は,不動産が旧所有者から新所有者に譲渡された場合を想定されているので,この点を追記
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借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が旧所有者から新所有者に譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】譲受人新所有者に移転する。
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借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が旧所有者から新所有者に譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その新所有者に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
不動産の借主が対抗要件を備えた場合,不動産の譲渡がされたとき,賃貸人たる地位は,新しい所有者に当然に移転します。
なぜなら,借主が不動産を借りていることについて対抗要件を備えたことにより,無敵モードになったからです。
借主が賃貸借の対抗要件を備えた,というのは,借主が,不動産を借りていることについて”誰に対しても”主張を押し通すことができる無敵モードになったことを意味します。
”誰に対しても”…すなわち,借りている不動産のオーナー(所有者)が,誰になろうとも,つまり新所有者でも新々所有者でも新々々所有者でも,借主は“不動産を借りていること”を主張することができるのです。
したがって,対抗要件を備えて無敵モードになった借主からしたら,借りている不動産の所有者が誰であっても関係がありません。
よって,勝手に賃貸人たる地位を移転させても全く問題がないため,借主が対抗要件を備えているときには,不動産譲渡時に”当然に”賃貸人たる地位を新所有者に移してしまうことにしたのです。
解説:『対抗要件を備える』ことの意味を確実に押えよう
本条605条の2の1項は,至極当たり前のこと言っている
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
実は,本条605条の2の1項は,至極当たり前のことを規定しているにすぎません。
いくつかの基本書や参考書をあたってみても「賃借人が賃借権について対抗要件を備えた際は,当然に賃貸人たる地位は移転する・・・」というような簡素な説明がなされています。
しかしながら…
「なんでだよぉぉぉぉぉぉ!どぉぉしてだよぉぉぉ!(藤原竜也風)」
と,筆者は初学者のときに悩みまくったので,“当然に”がなぜ“当然に”なのかを,本記事で丁寧に解説していきます。
理解のポイントは
- ①:「対抗できる」と「対抗要件を備えた」ことの意味を正確に理解する
- ②:「対抗要件を備える」を不動産賃貸借にあてはめる
の流れをおさえることです。
本記事もこの流れに沿って解説していきます。
①:「対抗できる」と「対抗要件を備える」ことの意味
「対抗できる」
まず,民法の条文上に頻繁に出てくる「対抗できる」ですが,これは「自分の保有する権利について,相手方に主張を押し通すことができる」という意味です。
たとえば,民法177条では『不動産に関する物権の得喪・・・は,登記をしなければ,第三者に対抗することができない。』とあります。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
民法177条 【不動産に関する物権の変動の対抗要件】
(ここからは“物権”は“所有権”として説明します)
そもそも,物権(所有権)という権利は,売買契約による承継取得ならば意思表示,取得時効による原始取得ならば一定期間の占有継続…のように,登記がなくても権利自体は有効に取得しています。
しかし,その有効に取得した所有権という権利を他人(第三者)に主張したい!(・自慢したい!・言いふらしたい!)のなら,登記がなければ,その主張は押し通せない…というルールが日本では整備がされています。
なぜこのようなルールが設けられているのかというと,所有権などの権利というものは目に見えないので,人が何の権利を持っているのかを「権利」というものを目で確認することができないためです。
「権利」が目に見えないので,登記という書面で「権利」を文字化して目に見えるようにしないと,どいつもこいつも,「権利」が目に見えないことをいいことに権利を主張し始めてしまう世の中になってしまいます。
よって,法の世界では,①権利を保有している事実と,②その権利を他人に対して主張を押し通せる状態とを分けて考えています。
そして,②その権利を他人に対して主張を押し通せる状態を,法学上「対抗できる」と呼んでいます。
②の状態になったことを証明するものが登記(や債権譲渡における確定日付付き通知)です。
「対抗要件」
民法177条の不動産登記のように,②その権利を他人に対して主張を押し通せる(=対抗できる)状態になるために必要とされる条件(民法177条の場合,不動産登記をする)のことを「対抗要件」といいます。
「対抗要件を備えた」
また,「対抗要件」を満たし,「対抗できる」状態のことを「対抗要件を備えた」といいます。
②:「対抗要件を備えた」を不動産賃貸借にあてはめる
ここまで見てきた内容を改めて整理しましょう。
・「対抗できる」:権利を他人に対して主張を押し通せる
↓
・「対抗要件」:「対抗できる」になるために必要な条件
↓
・「対抗要件を備えた」:「対抗要件」を満たし,「対抗できる」状態
では,上記の「対抗要件を備えた」と,民法605条の2の1項とを合わせて考えてみましょう。
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
民法605条の2の1項には『賃貸借の対抗要件を備えた』とあります。
この『賃貸借の対抗要件を備えた』に,今まで解説してきた「対抗要件を備えた」と組み合わせると…
「不動産を借りる権利について(借主が)誰に対しても主張を押し通せるようになった」
という意味になります。
対抗要件を備えて,対抗できるようになったのですから,借主は誰にだって権利を保有していることを主張できるのは当たり前ですよね?
ではこれを,もっともっと嚙み砕いて表現すると,どうなるでしょうか...?
それは…
借主は,誰にでも不動産を借りていることを主張できる無敵モード突入!!
です。
借主が「対抗要件を備えた」ということは,権利主張の相手が…
旧不動産の所有者でも...
新不動産の所有者でも...
その辺を散歩しているおじいちゃんでも...
自分の恋人でも...
誰にでも,不動産を借りていることを主張して押し通すことができるのです!
まさにこれは,不動産を借りていることを誰にでも対抗できるスーパー無敵モードです。
つまり,「対抗要件を備えた」とは「無敵モードに突入した」を意味するのです。
では,ここまでの話を,民法605条の2の1項にぶっこんで,条文の素読をしてみましょう。
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
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いらないところをカット+「対抗要件を備えた」を変換
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民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による(←本記事ではカット)賃貸借の対抗要件を備えた借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
↓
本条文は,不動産が旧所有者から新所有者に譲渡された場合を想定されているので,この点を追記
↓
借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が旧所有者から新所有者に譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】譲受人新所有者に移転する。
↓
借主が,誰に対しても不動産を借りていることを主張できる無敵モードになった場合において,その不動産が旧所有者から新所有者に譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その新所有者に移転する。
民法 第605条の2の第1項 【不動産の賃貸人たる地位の移転】
つまり,民法605条の2の1項が述べているのは,借主が対抗要件を備えて無敵モードになっているなら,不動産が譲渡されても賃貸人たる地位は“当然(=無条件)”に新所有者に移転するよ,ということです。
なぜ,賃貸借契約による債権についての譲渡が合意されていないのに,貸主の立場が勝手に新所有者に移転してしまうことが許されるのでしょうか?
それは,借主が無敵モードになっているからです。
対抗要件を備えて無敵モードになっている借主は,目の前にいるのがどこのどいつだろうと,不動産を借りている権利を持っていることを主張して押し通すことができます。
つまり,対抗要件を備えて無敵モードになった借主は「不動産の貸主(所有者)が誰であろうと一切問題がないのです」。
なぜなら,無敵モードであるため,不動産の貸主(所有者)が誰に変わろうとも,賃借権を持っていることをぶつけて勝利できるからです。

つまり,借主が対抗要件を備えて,無敵モード状態に突入しているのなら,借主としては誰が相手でも勝てる!
だから,譲渡人や譲受人間での債権譲渡のめんどくさい手続きをカットして,貸主の立場も移転させちゃっても誰も困らないし,“当然に”賃貸人たる地位を移転させちゃえ!ってことなんだね!
まとめ
ここまでをまとめると,民法605条の2の1項は「借主が無敵モードなら,賃貸人たる地位を勝手に新所有者に移しても誰も困らないから,“当然に”移転させるよん♪」ということを言っているにすぎないことが理解できたと思います。
しかしながら,基本書や参考書は紙面の制約もあって“当然に移転する”のような簡略な説明が多く,分かったようなわかってないような状態になりやすいと思い,本記事で解説しました。
最大のポイントは「対抗要件を備えた」=「無敵モード」の認識を持つことです。
当ブログでは,上記のようなユルさで,民法の基礎の基礎からの解説を逐条形式で行っています。 是非他の記事も目を通してもらえると嬉しいです。
※当ブログでアクセスの多い人気記事たちです! 是非読んでみてね!
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
(執筆中です! 少々お待ちください!)
※次条の解説はこちらです。
(執筆中です! 少々お待ちください!)
参考文献など
参考文献
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。