第1節 時効・総則

3分でわかる逐条シリーズ 民法145条 -時効の援用ができる者を絞るためのふるい-

2022年1月17日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法145条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。

民法 第145条【時効の援用】

 

条文の性格

時効制度の恩恵を受けられる者が誰なのかを定める条文です。

時効制度は,時間の経過を起因として,見かけ上の外観にあわせて真実の権利関係をねじ曲げるものです。

その結果,真実の権利者が所有権を喪失したり,債権を失ったりします。

このような時効が持つ性質から,全く関係ない人でも時効効力を利用出来てしまうとすると,全然利害関係のない者によって,いたずらに所有権が脅かされることになります。

たとえば,お金を友人に貸していて,消滅時効の要件を満たすが,友人自体はキチンと返済する意志を持っているとします。

この友人と,いつ返済するかの計画を喫茶店で話していたら,隣の席のおっさんが「話を聞いていると,どうやら消滅時効の要件は満たしているね。 どれ,おじさんがその権利消してやろう。 消滅時効の援用。 え〜い!」とか言って,いきなり時効援用して,あなたが貸してた債権を消せてしまうと困りますよね。

時効の強力な効果ゆえに,時効制度を利用できる者は制限すべきなのです。

つまり,先ほどの例であれば,倫理的なことは置いておいて,貸金債権を消滅させて,返済義務を免れることのできる友人は消滅時効を利用するに相応しい者でしょう。

一方で,いきなり話しかけてきた謎のおっさんは消滅時効を利用するに不相応な者と言えるでしょう。

本条145条は,時効制度を利用できる人間をふるいにかける存在なのです。

条文の能力

時効は援用しなければ効力を発揮しない

条文の趣旨に触れる上述の中で,『時効制度を利用する』という表現をしました。

これは,正確には法律用語で『時効の援用』と言います。

時効は,真実の権利者から権利を取り上げるような側面があるため,本来であれば時効の効果は発動しないに越したことはありません

そのため,時効の恩恵を受けられる立場にいる者が,時効の効力を主張しない限りは,時効の効力は発動しないルールとなっています。

これは,時効が時間的な要件などを満たした場合に,自動的に効果が発動するのを防ぎ,時効の効果発動を可能な限り減らす趣旨です。

つまり,時効の効果発動を人の意志に委ね,時効を援用しないと選択した人の分,時効効果の発動が減るというわけです。

取得時効の援用可能者は当事者のみ

取得時効における時効の援用ができる人は,当事者のみです。

取得時効の要件は,一定の期間,他人のものを占有し続けることです。

他人の物について所有権を認める効果は,その占有者,すなわち当事者にさえ認めてあげればOKです。

他人の物を占有し続けてる状態を長年見守ってきた,全く無関係な隣の家に住んでる人にまで時効の援用権なるものを認める必要はありません。

長年,実は他人の土地だと知らずに家を建てて住んでいて,10年後に突然インターホンが鳴って,出てみたら隣家の人が「この土地は時効により,あなたのものと認めよう」なんて言ってきたら「なんだコイツ」ってなりますよね。

消滅時効の援用可能者は当事者・保証人・物上保証人・第三取得者・その他正当な利益を有する者

消滅時効は,取得時効とは違い,当事者以外にも時効の援用が認められています。

消滅時効を援用できるのは,以下のとおりです。

  • 当事者
  • 保証人
  • 物上保証人
  • 第三取得者
  • その他権利の消滅について正当な利益を有する者

当事者に消滅時効の援用が認められるのは当然として理解できると思います。

以下,当事者以外の消滅時効の援用可能者をみていきましょう。

保証人

保証人とは,お金を借りた本人(主債務者)が契約どおりに返済することが出来なくなった場合に,主債務者の代わりに返済する義務を負う者です。

したがって,(場合によっては)債務を負担するという側面では,主債務者と同等の立場にいます。

主債務者と同じ立場にある保証人にとって,借金の債務が消滅したなら債務から解放されるため,消滅時効の援用を認めてあげるべきです。

当事者である主債務者が消滅時効を援用できるのに,同じ債務を負担する保証人が消滅時効を援用できないのは,あまりにも保証人に酷です。

消滅時効によって消滅させられない債務という,主債務者よりも重たい義務を保証人に負わせることは,主債務者との関係で均衡を失します。

また,消滅時効が援用可能な状態に陥っているならば,お金を貸した債権者側は,主債務者によって消滅時効が援用されて,債権が消滅することを覚悟しています。

したがって,主債務者に消滅時効の援用が認められているのならば,保証人も消滅時効の援用は認められる論理が成立し,実際に民法が認めています。

物上保証人

物上保証人とは,お金を借りた本人(主債務者)が契約どおりに返済することが出来なくなった場合に,この債務を所有する不動産などの財産で担保する保証人のことです。

物上保証人も,主債務者の債務が消滅した場合に,保証債務から解放される立場にいるのは前述の保証人と同じです。

よって,保証人の場合と同様の論理で,物上保証人にも消滅時効の援用権は認められます。

第三取得者

第三取得者とは,抵当権がくっついている不動産を,抵当権がくっついたまま取得した人のことです。

抵当権が付着した不動産の所有権というのは非常にもろいものです。

なぜなら,その抵当権が保証する債務が履行されなかった場合,抵当権が実行によって当該不動産の所有権を失うためです。

すなわち,自分とは関係ない人が借金を返さないだけで,明日にでもいきなり所有権を失う可能性があるのが,抵当権付き不動産の所有権です。

こんなおそろしい状態である,抵当権付き不動産の所有権を取得した第三取得者は,抵当権の目的である債務(お金を返済する義務)が消滅してくれれば,失う可能性の無い完全な所有権を得ることができます。

したがって,第三取得者は,手に入れた不動産にくっついている抵当権を,消滅時効で消すことについて利益があるため,消滅時効の援用を認められています。

その他権利の消滅について正当な利益を有する者

判例において,『その他権利の消滅について正当な利益を有する者』と認められた例は次の者です。

詐害行為(債権者を害する行為)によって,利益を得た者(詐害行為の受益者)は,詐害行為取消権を持つ債権者の債権の消滅時効を援用できます。

詐害行為取消権を持つ債権者の債権が,時効によって消滅した場合,詐害行為取消権も債権と一緒になって消えます

つまり,詐害行為取消権が消えてくれれば,詐害行為の受益者は,詐害行為によって得た利益を失うことがなくなります。

したがって,詐害行為取消権を持つ債権者の債権が,消滅時効によって消えることについて,詐害行為の受益者は利益を有するため,判例は詐害行為の受益者に消滅時効の援用を認めました。(最判平10.6.22)

コメント

その他権利の消滅について正当な利益を有しない者

後順位抵当権者は,消滅時効を援用できません

自分の順位より上の抵当権が消滅すれば,後順位抵当権者は,抵当権実行によって得られる配当金額が上がる可能性があります。

したがって一見すると,先順位の抵当権という物権が消滅時効で消えてくれれば,配当金を受け取る優先順位が上昇する,という利益を,後順位抵当権者は有してそうです。

しかし,判例は『配当額が上昇するかもしれないという後順位抵当権者の期待は,抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎない』として,後順位抵当権者は消滅時効の援用はできない,としました。(最判平11.10.21)

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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