第5節 消費貸借

【完全図解:民法587条】なぜ消費貸借契約だけ要物契約なのか?

2023年6月9日

伊藤かずま

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国際行政書士(第21190957号)
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ウリム

2020年4月に民法の債権編の大改正によって,典型契約のほとんどが諾成契約に揃えられたのに,なぜ消費貸借契約だけは要物契約とされているのでしょうか?

憶えることが増えるから揃えてくれよ!!!

 

本記事では,なぜ消費貸借契約だけが要物契約とされているのかの理由と,そもそも消費貸借契約がどのようなものなのか?について,完全に理解できるようにわかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 消費貸借契約が,どのような性質を持つ契約なのか知ることができる
  • 消費貸借契約が,賃貸借契約と使用貸借契約と根本的に違う理由を理解できる
  • 消費貸借契約のみが要物契約とされている理由が理解できる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:消費貸借は,借りた物を一度消費する前提を有する

民法587条 【消費貸借】

消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。

消費貸借契約は,借りた物を一度消費し,同種の物を返す契約です。(主に,お金を借りる,借金の契約が消費貸借契約にあたります)

 

消費貸借契約は,貸借型契約に分類され,貸し借りの目的物がブーメラン的軌道を描きます。

貸借型契約における対象物のブーメラン的軌道
貸借型契約における対象物のブーメラン的軌道

 

他の貸借型契約である賃貸借&使用貸借契約は,貸した目的物がそっくりそのまま返ってくる,完全ブーメラン的契約です。

賃貸借&使用貸借契約では,全く同じ個体が返ってくる
賃貸借&使用貸借契約では,全く同じ個体が返ってくる

 

対する,消費貸借契約は,貸した物が一度消費され,同種の別の個体が返って来る,不完全ブーメラン的契約です。

消費貸借契約では,貸した物とは別の物が返ってくる
消費貸借契約では,貸した物とは別の物が返ってくる

 

消費貸借契約は,典型契約で唯一の要物契約とされています。

その理由は,消費貸借契約は,貸し借りの対象物が一度”消費”されて,借主の手元から無くなるため,契約成立のタイミングを引渡しまで遅らせないと,貸主から不当な請求が可能となってしまうからです。

(※消費貸借=要物契約の理由は,結論の章で文字だけの説明でまとめるのが難しいので,以下の解説の章の最後『なぜ,消費貸借契約のみ要物契約なのか?』で詳しく解説していますので,そちらを確認してください!)

 

解説:消費貸借は,不完全ブーメラン的軌道を描く

消費貸借契約はお金の貸し借り!

民法587条 【消費貸借】

消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。

消費貸借契約は,借りた物を一度消費し,同種の物を返還する契約です

条文中の『種類,品質及び数量の同じ物』の具体例としては,現代ではだいたいお金です。(その他としてはお米など)

日常生活でもよく耳にする消費者金融などのお金を貸して,その返済利子で利益をあげる企業は,この消費貸借契約を利用してビジネスをしていることになります。

消費貸借契約という字を見たら,お金の貸し借りを即座にイメージできれば,今後の勉強もはかどるはずです。

 

消費貸借契約は,ブーメラン型である貸借契約型の仲間

消費貸借契約は,民法典の587条に規定されていますので,典型契約となります。

民法典の典型契約の中に『貸借』という文字が使われている契約が,消費貸借の他に賃貸借と使用貸借が存在します。

まとめると,貸借型契約は以下の3つです。

  • Ⅰ:賃貸借契約 (民法601条)
  • Ⅱ:使用貸借契約(民法593条)
  • Ⅲ:消費貸借契約(民法587条)

『貸借』とは字のごとく,“貸し借り”のことです。

貸借型契約である3つはすべて,下図の赤矢印ように,貸し借りの対象物を,貸して→借りて→返すという,物が貸主から離れて戻って来るというようなブーメラン的軌道を描きます。

貸借型契約における対象物のブーメラン的軌道
貸借型契約における対象物のブーメラン的軌道

 

消費貸借契約の特殊性

前述のとおり,消費貸借契約は貸借型契約の仲間のひとつであり,貸し借りの対象物が行って帰って来るブーメラン的軌道を描くものでした。

 

消費貸借契約は,他の貸借型契約である賃貸借&使用貸借契約とは決定的に違う点が2つあります

そして,この違うポイントである2つは,絶対に頭に叩き込んでください!!!

 

絶対にこの記事を読んでいるうちに暗記してくださいね?

いいですね?

それでは,肝心のポイント2つを確認しましょう。

  • ①:消費貸借契約は,貸した物とは別の物が返って来る
  • ②:消費貸借契約は,借主が借りた物を一度手放すことが前提とされている

それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。

 

①:消費貸借契約は,貸した物とは別の物が返って来る

消費貸借契約は,条文中に『種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をする』と書かれているとおり,同種の物を貸主に返還することになります。

民法587条 【消費貸借】

消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。

つまり,消費貸借契約の代表的な金銭(1万円とします)の貸し借りの場合,貸した1万円札とは別の1万円札をもって返還することになります。

したがって,たしかに「1万円札」という同種の物は行って帰って来るのですが,返還される1万円札は完全に別の個体(お札)となります。

消費貸借契約では,貸した物とは別の物が返ってくる
消費貸借契約では,貸した物とは別の物が返ってくる

 

対して,賃貸借と使用貸借は,貸した物がそっくりそのまま同じ個体で返ってきます。

賃貸借&使用貸借契約では,全く同じ個体が返ってくる
賃貸借&使用貸借契約では,全く同じ個体が返ってくる

 

よって,たしかに貸借型契約は,目的物がすべてブーメラン的軌道を描くのですが,消費貸借契約のみは別個体が戻って来ることから,ブーメラン“もどき”的な契約と言えるのです。

  • Ⅰ:賃貸借契約  ←完全ブーメラン的契約
  • Ⅱ:使用貸借契約 ←完全ブーメラン的契約
  • Ⅲ:消費貸借契約 ←ブーメランもどき契約

この点が,賃貸借&使用貸借 vs 消費貸借における大きな違いポイント1つ目です。

 

②:消費貸借契約は,借主が借りた物を一度手放すことが前提とされている

違いポイント2つめは,消費貸借契約においては,借主が借りた物を一度手放す,すなわち“消費”してしまうことです。

 

前述のポイント①で見たとおり,賃貸借&使用貸借は,貸し借りの目的物と同一個体を貸主に返す必要があるため,目的物を消費することはありません

対して,消費貸借においては,同種の物を返せば良いので,貸し借りの目的物を消費することができます。

消費しても,弁済期に同種の物を返還すれば良いからです。

 

このように,“消費”貸借は,同一個体を返還する必要がないことから,“消費”をすることが貸借型契約において唯一許されており,このことが“消費”貸借契約と名付けられている理由です

 

また,消費貸借契約は,消費されることがほぼ100%前提とされた契約です

消費貸借契約を結んだのに借りた物(お金)を消費しないということは原則としてあり得ないと考えてOKです

 

なぜなら,お金が今足りない(=今お金を消費する必要がある)のに,手元にお金が無いから,お金を借りるために消費貸借契約を利用するからです。

お金が手元にあるのなら消費貸借契約を結ぶ必要は無く,自分の持っているお金を使って欲しいものを買うなりすればよいのです。

したがって,ポイント②として,消費貸借契約は,借主が借りた物を一度手放すことが前提とされているものとなります。

 

消費貸借契約は,典型契約における唯一の要物契約

消費貸借契約は,民法における典型契約で唯一,要物契約とされています

要物契約とは,契約当事者の合意(=申込の意思表示と承諾の意思表示の合致)の他に,物の引渡しなどがあることにより成立する契約のことです

 

消費貸借契約が要物契約であることは条文に書かれています。

民法587条 【消費貸借】

消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる

すなわち,消費貸借契約は,当事者の意思表示が合致しただけでは成立せず,貸し借りの目的物が貸主から借主に引き渡されたときにようやく成立するのです。

 

なぜ,消費貸借契約のみ要物契約なのか?

ウリム

ところで,2020年の民法大改正で,典型契約のほとんどが諾成契約に揃えられたと聞いています。

なぜ,消費貸借契約のみ要物契約なのですか?

全部の典型契約を諾成契約に揃えてくれれば,憶えることが少なくて済んだのに…。

本記事の最後に,消費貸借契約が唯一要物契約とされている理由を解説します。

 

ここまでで,消費貸借契約が持つ,他の貸借型契約との違いポイント2つを確認しました。

  • ①:消費貸借契約は,貸した物とは別の物が返って来る
  • ②:消費貸借契約は,借主が借りた物を一度手放すことが前提とされている

この①②を理解すると,典型契約において,なぜ消費貸借契約が唯一要物契約とされているのかがわかります。

 

先に結論から言いますと「消費貸借契約は,貸し借りの対象物が一度”消費”されて,借主の手元から無くなるため,契約成立のタイミングを引渡しまで遅らせないと,貸主から不当な請求が可能となってしまうから」というのが,消費貸借契約が要物契約となっている理由です。

 

いきなり理解は難しいと思いますので,以下のとおり【状況A】と【状況B】を用いて説明します。

まず【状況A】です。

【状況A】

消費貸借契約は,貸した物(お金)が一度消費され,借主の手元から離れます。

消費貸借契約+対象物の消費
消費貸借契約+対象物の消費

つまり,消費貸借契約が”締結され”,借主が,物(お金)が”消費し切った”とき,以下のような【状況A:”消費”により借主の手元にお金がない】となります。

消費貸借契約のみが当事者のもとに残る...
【状況A】消費貸借契約のみが当事者のもとに残る...

 

さて,この【状況A】で,貸主が借主に対して「消費貸借契約で貸したお金返して」と請求してきた場合どうなるでしょうか?

当然,弁済期を迎えていれば,貸主の金銭返還請求は有効な要求であり,借主はお金の返還義務を負います。

借主は現にお金を借りて,消費までしているのですから当然です。

 

対して【状況B】は以下のような状況です。

【状況B】

”消費貸借契約を締結することが合意されるまでは終わっている”が,”まだ金銭の引渡しがされていない”ときです。

消費貸借契約の”合意”まで終了
消費貸借契約の”合意”まで終了

↓↓↓

消費貸借契約の”合意”のみが当事者のもとに残る...
【状況B】消費貸借契約の”合意”のみが当事者のもとに残る...

では,この【状況B】で,貸主が借主に対して「消費貸借契約で貸したお金返して」と請求してきた場合どうなるでしょうか?

借主としては,お金をまだ受け取っていないのですから,「何言ってんだ? お前? 返すもなにも,まだお金受け取ってねーよ!!」と言いたいはずです。

 

民法587条(消費貸借契約=要物契約ルール)は,この借主の金銭返還拒否の主張を可能にしてくれます

なぜなら,民法587条により消費貸借契約は要物契約であるため,借主Bに金銭が引き渡されていなければ状況Bでは契約は成立していないからです。

契約が成立していないのですから,貸主の金銭返還請求権はまだ発生しておらず,それに対応して借主のお金を返還する義務もまた,まだ発生していないのです

引渡しがされていなければ契約は成立していない
引渡しがされていなければ契約は成立していない

 

 

ところが,もしも消費貸借契約が諾成契約というルールにしてしまうと...困った事態に発展します

 

ここで,改めて【状況A】と【状況B】とを見比べてみましょう。

【状況A:”消費”により借主の手元にお金がない】

消費貸借契約のみが当事者のもとに残る...
【状況A】消費貸借契約のみが当事者のもとに残る...

【状況B:”引渡しがまだ”により借主の手元にお金がない

消費貸借契約の”合意”のみが当事者のもとに残る...
【状況B】消費貸借契約の”合意”のみが当事者のもとに残る...

両方の状況で注目して欲しいのは,両状況とも,借りたお金が借主の手元には無いという点です。

なので,貸主と借主の間でお金返せ!返さない!というトラブルになった際,裁判所などの第三者は,貸し借りの対象物が借主の手元に存在するか否かで,契約が成立したのかを判断することはできません

売買契約の有無を巡ってトラブルになったのなら,売買の対象物が買主の手元にあるという事実が,売買契約の存在を確からしくしてくれます。

ところが,消費貸借契約では,借りた物は基本的に消費されて借主の手元には残りません。

この消費貸借の特性が,貸し借りの対象物が借主の手元にあるかどうかで,消費貸借契約が存在するか判断できないネックを構成しているのです。

 

さらにここに,「契約は口頭でも成立する」原則と,(もし仮に消費貸借=諾成契約として)「消費貸借契約は諾成契約」というルールが入ってきてしまうと,困った事態に陥ります。

 

つまり,借主の手元に貸し借りの目的物が無いことに漬け込んで,【状況B】のように,本当はお金をまだ引渡していないから借主の手元にお金が無いのに,「口頭で借主と,諾成契約たる消費貸借契約を結んだ! だからお金を返せ!」と,貸主が主張できてしまう可能性が生まれるのです

【状況B】のようにお金をまだ実際に借りていない借主からしたら,借りてもいないお金を払わされたらたまったものではありません。

 

しかし,

  • 「貸し借りの目的物が消費される前提の消費貸借の特性」
  • 「実際に借主の手元に目的物がない」
  • 「契約は口頭でも成立する」
  • 「消費貸借契約は諾成契約」

が揃ってしまうと,裁判で借主が負けてしまって,借りていないお金を払わされる可能性も否定できません。

 

ではどうするか?

困った事態に陥る原因は,「まだお金を受け取っていないのに契約が成立する可能性がある」,すなわち「消費貸借契約は諾成契約」という部分にあります

それはつまり,「消費貸借は貸し借りの目的物が引き渡されるまで成立しない(=要物契約)」ようにすればいいということです。

そうです,消費貸借契約は,その成立に目的物の引渡しが必要という,要物契約にすればよいのです

 

こうすれば,借主のお金を返還する義務は”お金を実際に引き渡されるまで”発生しないことになり,借主が不当な請求におびえる心配がなくなります。

このように,消費貸借契約を諾成契約としてしまうと,金銭の返還を巡ってトラブルになるため,消費貸借契約は唯一の要物契約としてデザインされているのです。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※前条の解説はこちらです。

(絶賛準備中です!!)

※次条の解説はこちらです。

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